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荘子の音楽観|思想と文体と音楽との類似性

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「人の自然な生まれつきを失わせるものに音楽がある」。道家の荘子(紀元前369年頃 – 紀元前286年頃)によると、音楽は五つの音階が耳をかき乱してものを聞きとれないようにさせる、という。また同じく道家の老子によると、感覚的な欲望にとらわれて一時的な快楽を追い求めるとき、人はやがてその刺激のなかに溺れて正常な感覚をくるわせてしまう、という(五音令人耳聾)。ここで老子を援用したのは、荘子と同じ道家で、思想の類似性が多分にみてとれるからである。したがってこれから述べる荘子の音楽観は、老子の音楽観とほど近い。

荘子の音楽観が濃厚にみられる箇所は『荘子 天運篇』である。そこで荘子は、みずからの音楽観をこう表している–––「音楽というものは、まずはじめに不安な緊張を起こさせる。不安で緊張すると物の怪につかれたようになる。次にはその心の緊張をときほぐしてやる。心がぐったりとゆるむと世俗から遠ざかる。最後にはわしの音楽ですっかり混迷させてしまう。混迷してわけがわからなくなると無知無欲の愚かものになる。愚かものになるとそこで道と一つになる。道こそは、そこにわが身を落ちつけて一つになっていけるものだ」。これは荘子の、ことに政治についての思想と同様で、人びとが無知無欲の愚かものになって自然の生まれつきに帰るのを目的としている。

ところで道家を代表する老荘の音楽観は、儒家を代表する孔子の音楽観とは明らかに違う。たとえば孔子は、魯国の音楽長官に音楽とは何かをこう主張している–––「演奏し始めると、音色が集合し調子が合う。そこで各音の調子をのばすと(自由にしてゆくと)、各音それぞれ本来の音色が大きく現れるが調和を保つ。さらには音声が明瞭となる。〈となると各音が独立してしまいそうになるので〉各音を連続させつないでゆく。こういう風にして完奏するのだ」(『論語 八佾』)と。要するに、孔子の音楽の目的は「自律」と「調和」とにある。調和・平等にはじまり、それぞれが分を弁えて独奏し、それがまた調和に終わるという旋律である。これは人間社会を安定化させる中庸の音楽観とも言えよう。

また同じく儒家の荀子は〈楽論篇〉で「音楽というものは、一つの標準を明確に立ててそれによって調和を作りあげるものであり、種々の調べを併用してそれによって節度をかたちづくるものである。こうして、音楽の緩急抑揚が適合して表現様式が完成され、社会の根本的道理にしたがうことができ、思想感情のさまざまな変化を制御できる」という。荀子の音楽観は、孔子の主張・音楽観とおおむね一致する。荀子は〈富国篇〉で「民衆の耳をたのしませ、それから民衆の心をひきしめる」とも言っている。これは音楽について直接に語ってはいないが、モダニズムの病癖を内部から批判するといった思想ないし音楽観である。

音楽観は各人の主義・思想または「人間はどうあるべきか」という理念によって形成される。荘子(老荘)の音楽観は、先に述べたとおり、人びとが無知無欲の愚かものになって自然の生まれつきに帰るのを目的としている。人びとを無知無欲あらしめるわけは、人間の小ざかしい知恵分別があらゆる現象の奥深くにある理法、すなわち普遍的原理を見失わせるからである。荘子は音楽によって、人びとを無知無欲あらしめ、世俗の知恵を棄てさせ、混迷させ、そして道にみちびく。

言うまでもなく「人の自然な生まれつきを失わせるものに音楽がある」というのは、一面的なもので、快い音色の音楽を対象としたことばである。このたぐいの音楽は人びとを酩酊させ、感覚器官を狂わせて、ものをけなくする。荘子らの理想とする音楽とは異なるものである。

ところで荘子の文章には荒唐無稽と思えなくもない比喩が多い。『荘子 逍遥篇』の出だしは「北の果てにこんという〈魚〉がいて、それは鵬という〈鳥〉へと変化する。その鳥(鳳凰ほうおう)は九万里の高さへ飛翔して南方を目ざす」である。この話を滑稽と思うのは成見の知のはたらきであり、徒労と思うのは欲心をいだいているからである。こうした書き出だしや比喩というのが道と一体になる契機となるものなのだろう。

 

五つの音階とは「きゅう」、「しょう」、「 かく」、「」、「」をいい、「宮」をドとすると、「商」はレ、「角」はミ、「徴」はソ、「羽」はラに相当する。

 

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令和四年 二月

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