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コレット|『シェリ』の要約と感想

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1920年に発表された『シェリ』はフランスの作家シドニー=ガブリエル・コレットの四十七歳のころの自伝的小説である。

 

生活態度が洗練された野獣のような二十五歳の美男子シェリと、かつての高級娼婦であり恋愛の熟練者である四十九歳の中年美女レアとの煮えきらない分からない関係をこまやかな男女の心理を背景に描かれる。

 

コレット|『シェリ』の要約

高級娼婦を母にもつ放蕩息子の美男子シェリは、母の友人であり教育係でもある同じく高級娼婦あがりの中年美女レアと六年間交際を続けている。シェリは洗練された野獣のような二十五歳であり、レアは高級娼婦(ココット)に固有な恋愛の法則に熟練した四十九歳である。

 

シェリが愛しているのはレアか、レアの所有物か、レアのなかのシェリ自身か。たほうのレアは彼女の熟練をもってしてもシェリの気心が知れない。二人の煮えきらない分からない関係が続くかたわら、レアよりも随分年少の十八歳の女性エドメとシェリの結婚が決まる。

 

五十歳にもうすぐ手の届くレアは、シェリの結婚によって高級娼婦にあるまじき苦悩をはじめてあじわい、パリを離れて一人旅をはじめる。

レアの状況が気になるシェリは、若妻エドメの従順な性格のおかげもあり、彼もしばらく家を離れて友人のデスモンとともに当て所もなく旅をはじめる。

 

長たらしい旅を終えたレアそしてシェリの二人は、レアの家で再会し旅の経緯を二人して探りあう。

程なく二人のあいだには一風変わった関係が成立し、そこにはレアのもとを離れるシェリの姿がある。

 

コレット|『シェリ』の感想

 

本作の執筆時、著者のコレットは47歳であった。男の視線が消えかかる感覚を抱きはじめたコレットは、若さに対する嫉妬を隠しもっていたに相違ない。若妻エドメに対するシェリの罵詈雑言はおそらく若者に対する著者コレット自身の赤心である。

 

 

《十九歳で肌が白くて、髪はバニラの匂い、ベッドでは目を閉じっぱなしで腕もだらりとさせてるだけ――それもたいへんけっこうですが、だからと言ってそんなに貴重なもんですかね? 貴重だと思ってるんですか、あなたは?》

 

 

高級娼婦の才能

 

ところで「高級娼婦」というのは19世紀前後のフランスで富裕層を対象とした売春商売を営む女性を示す。本書の解説欄に載せられている「高級娼婦」についての詳細をいかに引用したい。

 

 

「高級娼婦」は、おもに第二帝政からベル・エポックの時期にパリの裏社交界で花形だった美女たちで、主として高い身分の者、有力者などを客とし、多額の対価を求めた。

彼女たちはしばしば相手を選ぶ権利を有していて、エスプリがきいた話術に長け、文学、音楽、美術などの教養も身につけていた。

 

……そして裏社交界といっても、出入りしていたのはヨーロッパ各地やロシア、東洋の王侯貴族や大富豪、大作家や芸術家などで、いわゆるパトロンになることは「男の勲章」とみなされたという。

彼女たちはそんなパトロンから、豪華な邸宅やドレスや帽子、レアもつけているような高価で重い真珠やきらびやかな宝石などを贈られて、劇場やレストランやパーティーに現れた。

 

「高級娼婦」というのは世間の常人離れした才能を間違いなく有している。

彼女らの情という情はほぼすべて演じられており、いかにして他人を同情させて所有物を盗みとるか、それを四六時中もっぱら考えていなければならず、それを実行し成功させる才能が必要なのである。それに加えて、他人を奈落の底に貶めることに心の底からよろこびを感じられる必要があるだろう。

 

シェリの母の高級娼婦の才能

 

高級娼婦に固有な才能をシェリの母であるマダム・プルーも有している。

 

石油で一儲けして長旅から帰ってきたレアに対して、シェリの情報をこれ聞けよがしに仄めかす、マダム・プルーの作戦は、息子の存在を盾として友人ではあるがライバルでもあるレアを屈服させて、優越感をあじわうことである。レアは何とか片膝つかずに耐え抜いたのではあるが。

 

若妻のエドメに対しては平穏無事な安心感を抱かせて、安心の絶頂にあるエドメを絶望の底へと蹴り落とすことを企てている。もっとも本作ではエドメを絶望させる描写は見られないのではあるが。

 

 

《今すでに彼女(マダム・プルー)は、老境ならではの凶暴とも言える楽しみを味わっていた。ひそかな戦いでしかない楽しみ、他人の死を待ち望み、大災害がやってきてこの世にただひとつの点、ただひとりの自分が生き残るという激しい希望が絶えず湧いてくる楽しみ――。》

 

 

このように高級娼婦というのは世間の常人離れした才能を有している一流の策士なのである。

 

宿命的で野獣のような美男子シェリ

 

高級娼婦を母にもつ放蕩息子のシェリーにもその血が多分に受け継がれている。

 

 

「大好きだヌヌーン! やっと会えた! ぼくのヌヌーン、おお、ぼくのヌヌーン、この肩、この香り、このネックレス、ぼくのヌヌーン、ああ! すげえ……。髪のちょっと焦げたこの匂いも、ああ! すげえ……すげえよ……」

 

 

レアに対するこのせりふはシェリの野獣染みた性格を顕現させている。

 

母のマダム・プルーが息子のシェリに対して思い抱く〈宿命的〉というのは、異性を破滅に追いやるものの性格を示しており、小説ではメリメのカルメンやワイルドのサロメなどが宿命的な性格をもつものに該当する。

高級娼婦であった母マダム・プルーの遺伝がよく継承されているシェリを高級情夫といっていいかもしれない。

 

本書は表題からしてシェリの性格を反映させることに重点を置いている小説のように思われるのだが、何かしらもの足りない印象を受ける。

もう一歩、シェリの野獣染みた性格を、高級娼婦よろしく洗練された生活態度を壊さないまでに、踏み込んでみてもよかったのではないか。

 

母と結合したい男性心理がシェリに描かれる

 

男(シェリ)がもっとも安心感を抱ける他人は母(マダム・プルー)である。

安心を求める男は無意識のうちでは母との結合を切望しているのだが、それはいろいろな制約から現実的には不可能である。それゆえ現実においては母ではなく母に似ている異性を探し求める。シェリの母の友人であり教育係でもあるレアはシェリにとって母に似ているもっともな異性であり、たとえシェリが罵詈雑言を浴びせかけてもレアの寛容な忍耐力と応答とによって、親子の関係が成立してしまうため、シェリは惹かれざるをえない。

 

終盤の《脱走に成功した者のように、胸いっぱい息を吸いこむのを》というシェリの行動ならびにレアの内心は親密な親子の関係を物語っているのであろう。

 

 

令和二年 六月

 

 

 

シェリ (光文社古典新訳文庫)

 

 

 

 

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