はじめに「聞く」と「聴く」との意味のちがいを説明しているNHK文化研究所の文章を引用したいと思います。
ただ単に「きく」場合は一般に「聞く」を使います。
注意深く(身を入れて)、進んで耳を傾ける場合には「聴く」を使います。
『広辞苑』(岩波書店)・・・広く一般には「聞」を使い、注意深く耳を傾ける場合に「聴」を使います。
このTED動画の標題は「聴く力を高める」ですので、「進んで耳を傾ける方法」、あるいは「注意深く耳を傾ける方法」とも捉えることができます。
そのような方法を音の専門家であるJulian Treasure 氏が5つ紹介しています。
聴く力を高める5つの方法とは?
<要約>
「聴く」とは、音から意味を取得することです。
コミュニケーションのおよそ6割は聴くことですが、聴くことがうまくできない人が多くいます。
その原因は、模写や録音・録画といった記録する技術の発展により私たちが音を注意深く聴くことをしなくなったこと、視覚的・聴覚的にも情報があふれかえっていることが考えられます。
私たちから理解する能力を司る「聴く力」が失われつつあります。
もし「聴く力」が失われれば、意見が異なる者同士でのコミュニケーションをうまくとれずに対立構造が激化して、世界は恐ろしい場所に変わります。
そうした世界を回避するためにもだれもが「聴く力」を高める必要がある。
方法1. 3分間の無音エクササイズ
無音あるいは音の静かな空間で3分間すごすこと。
この「無音エクササイズ」によって、私たちの耳をクリアな状態にし、小さな、静かな音でも聴きとることのできる耳をつくります。
おそらく「無音エクササイズ」とは、「味覚」を正すようなことでしょう。無色透明な「水」を飲み、つぎに口にする飲食物の真価がわかるような感覚だと思われます。
方法2. 音の発生源を予測する
たとえ周囲の喧騒がはげしい場所であっても、ある特定の音に耳を澄ませて、その音の発生源を予測します。
たとえば飲食店であれば、店員が歩くときの足音を聴いて、耳を澄まし、店員がどこにいるのかを予測します。
おそらく音の発生源を予測することで「語学力」も磨かれるのではないでしょうか。日本語では発音されない「音」を見つけるのに役に立つと思われます。
方法3. ありきたりな音を楽しむこと
「ありきたりな音」とは、洗濯機や掃除機の作動音、あるいは線路上を走る「ガタンゴトン」という電車の走行音などを意味しています。
私たちに身近な、ありきたりな(規則的な)音を楽しむことで聴く力は高まるのでしょうか?
これは「聴く力を高める方法」というよりは「忍耐力を高める方法」といったほうがよいかもしれません。
方法4. 聴き方を変えること
「聴き方」にはいくつか種類があり、私がコミュニケーションする相手に合わせて聴き方を変えます。「聴き方」を変えることで対象のほかの側面を見ることができます。
【聴き方の種類】
- 積極的傾聴(Active Listening)
- 受動的傾聴(Passive Listening)
- 要約的傾聴(※造語/Reductive Listening)
- 寛容的傾聴(※造語/Expansive Listening)
- 批判的傾聴(※造語/Critical Listening)
- 共感的傾聴(Empathetic Listening)
※寛容的傾聴と要約的傾聴と批判的傾聴は本記事の造語です。
批判的傾聴(critical listening)は聴く力を高めるのみならず、私がコミュニケーションする相手との距離を縮めることもできます。なぜなら相手の話に批判すること、批判できることは、二人の関係の土台に安心が敷かれているからであり、相手の話を理解しているからです。とはいえ批判だけでは相手に心理的圧力を与えてしまい、相手から避けられるでしょう。
方法5. RASA(ラサ)という聴き方を意識する
RASAとは、
- R Receive/受け取る・・・話者の話を注意深く聴くこと
- A Appreciate/理解する ・・・「んん」や「わかった」と意思表明をすること
- S Summarise/要約する ・・・話者の話を要約すること
- A Ask/尋ねる・・・話者に質問すること
以上の四項目の頭文字をとったものです。「聴く」とは、相手の話に注意深く耳を傾けることであり、以上の四項目のRASAというコミュニケーションがとれなければ「聴く力」は失われているといっていいかもしれません。
まとめ
このTED動画で紹介されている「聴く力を高める方法」は次の5つでした。
- 3分間の無音エクササイズ
- 音の発生源を予測する
- ありきたりな音を楽しむ
- 聴き方を変える
- RASA(受け取る、理解する、要約する、質問する)
講演者であるJulian Treasure氏は「聴くこと」がいかに大切であるかを次のとおり主張します。
「聴くこと」は時間と空間をつなぎ周囲の世界と私たちをつないでくれます。
互いの理解をつなぐのはもちろんのこと、精神的にも私たちをつないでくれます。
人生を最大限に楽しむためにも意識的に聴くことは必要不可欠です。
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