空を飛んでいるカバ、海を泳いでいるゴリラ、レストランで食事するサル……こういう見たことも聞いたこともない情報を、それが事実あるかのように、頭でイメージできるのはなぜでしょうか。
「Mental synthesis(心的統合、前頭葉合成)」という理論では、イメージを符号化(encode)して、符号化された複数の情報を同期的に復号すること(decode)と説明されます。
この理論を応用すれば、私たちは想像力をみがくことができるでしょう。
イメージは符号化されるとは?
私たちが見たり聞いたりする情報は、それをまたいつでも想起できるように、脳内で符号化(encode)されます。それを想起するときは、脳内のニューロン(神経細胞)が正確の箇所、正確のタイミングで発火するように符号化した情報を復号します(decode)。
こうして同時に発火したニューロンは結合されて、イメージとして思い浮かぶと考えられています。かかる一連の活動は「ヘッブの法則」と呼ばれています。
しかしヘッブの法則では、ある情報(カバ)と別の情報(空を飛んでいる)とを正確なタイミングで発火し結合できることが説明されません。
正しいイメージを思い浮かべるためには、正確な箇所を正確なタイミングで発火しなければならず、ある情報(カバ)を復号しているときにまた別の情報(空を飛んでいる)の復号が遅れてしまうとそのイメージを思い浮かべることはできません。
前頭葉が、電気信号の速度を調整して、同期的に複数の情報を復号する
そこで前頭葉が登場します。
前頭葉とは、私たちの選択・判断を決めている脳内の最高司令部のようなものです。感情や意思決定を司ると考えられています。前頭葉とは何か?
前頭葉の前側にある「前頭前皮質」のニューロン(神経細胞)は、神経繊維というケーブルのようなもので後部皮質とつながっています。前頭前皮質のニューロンが、この神経繊維から電気信号を後部皮質にある複数の箇所に伝えて、いっせいに各箇所を活性化します。こうして各箇所に同時に電気信号が送られると、そこで合成されたイメージを実際に見たことがあるように経験できるわけです。
まとめると、一、ある情報は符号化される。二、符号化された情報を復号するためには、脳内の正確な箇所を正確なタイミングで発火させなければならない(ヘッブの法則)。三、二つの情報を単一の情報として復号するためには電気信号の速度を調整しなければならない。四、その速度調整の役割を担っているのが前頭葉であり、ある情報の復号とまた別の情報の復号とを統合(合成)して、「空を飛んでいるカバ」という滑稽なイメージが思い浮かべられる。
イメージ化を高速化するためには、電気信号の速度を上げること
Mental synthesis(心的統合、前頭葉合成、※適当な訳語が見つからないので両言語を併記している)の理論にしたがえば、何かをイメージする速度というのは電気信号の速度に比例します。「空を飛んでいるカバ」という情報を聞いてすぐ、それをイメージできる人は電気信号の速度が秀でているというわけです。(もしくは、そういう情報をすでにもっている)
したがって電気信号の速度を上げる方法が、イメージ化を高速に、つまり頭の回転を高速にすると考えられます。電気信号の速度を上げる方法は、諸説ありますが、あることを繰り返すこと(反復練習)や「良質な脂質(細胞膜の成分となるコレステロール、飽和脂肪酸)をとること」などがあります。この二つの方法は、ケーブルのような神経繊維を巻いているミエリンという絶縁性をもつ層を分厚くして、電流の漏れを防ぎ、電気信号を円滑化することです。
また、電気信号の速度を調整すると言われている前頭葉の働きがよければ、その分、電気信号の速度も上がることが予想されます。
電気信号の速度を上げる方法については別の記事を用意しています。
参考: The neuroscience of imagination
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