これは個人的経験にすぎないけれども、大阪人と会話していてつくづく思うことがあります。「頭の回転が速い」ということです。私の会話した多くの大阪人は、そのほかの地方の人と比べると、発想は豊かで、要点の整理は速く、頭の回転が速くありました。
「頭の回転が速い」を言い換えれば、脳内の神経細胞間で受発信される電気信号の伝導力が高いということです。だから頭の回転速度を上げるためには、電気信号の伝わる速度を上げなければなりません。本記事は、その方法を詳説しています。
軸索を太くすると頭の回転は速くなるか?
頭の回転速度を上げる電気信号は、軸索(axon)という神経細胞間をつなぐ電気ケーブルのようなもの(神経繊維)を通して伝えられます。
軸索の口径が小さければ、その中は圧迫されるため、内部の抵抗力は強くなり、流れる電気信号の伝わりが遅れます。ひるがえって、軸索の口径が大きければ、内部の抵抗力は弱くなるため、スムーズに、流れる電気信号の伝わりが速くなるわけです。
しかしながら、イカのように軸索の口径を巨大化すると、その分、脳内に占める体積は増すことになり、神経細胞(ニューロン)の数の減少につながってしまいます。したがって理論上においては、軸索を太くすると頭の回転速度を上げることはできますが、複雑多岐に思考を働かせられなくなると考えられます。
ミエリン(Myelin sheath、髄鞘)の層を分厚くすると伝達速度は上がるか?
電気信号の流れる軸索のまわりには「ミエリン(Myelin sheath、髄鞘)」というバウムクーヘンのようなものが巻かれています。ミエリンの主要な役割は、軸索を流れる電流の漏れを防ぐことです。ミエリン層が薄ければ絶縁体としての機能が低下するため、軸索を流れる電流は漏れやすくなり、電気信号の伝わる速度は低下します。
軸索を巻いているミエリンが数層しか重ならない箇所もあれば、100層も重なる分厚い箇所もあります。ミエリンが分厚い層は、薄い層に比べて、100倍以上の速さで信号を伝導できるとされています。
※平均的な神経細胞それぞれは時速約180キロで信号を伝達する
それゆえ、もしミエリン層を分厚くして絶縁体としての機能を高めることができるのならば、電気信号の伝わる速度が上がり、頭の回転速度を上げることができるわけです。
どうすればミエリン層を分厚くできるか?頭の回転速度を上げる方法
諸説ありますが、私たちの肌がターンオーバー(細胞更新)するように、ミエリン(髄鞘)も新生や再生が起こるとされています。
従来の説では、ミエリンは幼少期に完成されてから死ぬまで変わらない(更新されない)、とされていました。しかし現在の研究では、ミエリンは成人期を過ぎても更新されることが明らかにされつつあります。おそらく中枢神経系(CNS)に存在するミエリンは幼少期に完成され、末梢神経系(PNS)に存在するミエリンは成人期を過ぎても更新されるのではないでしょうか。いくつかの論文では中枢神経系に存在するミエリンも、その新生や再生の可能性が示唆されています。
ヒトにおけるミエリン脂質の代謝回転は特徴づけられていませんが、マウスでの研究は、ミエリン鞘内の脂質が継続的に改造され、脂質代謝回転率が生涯を通じて異なって調節されることを示しました。
Myelin Fat Facts: An Overview of Lipids and Fatty Acid Metabolism
方法1. 高レベルの脂肪酸を摂取する
ミエリンは脂質を多く含んでいます(脂質の割合は70%〜85%、タンパク質の割合は15%〜30%、ミエリン鞘の形成には、細胞外脂肪酸の取り込みとともに、高レベルの脂肪酸と脂質の合成が必要)
これは現在では明らかではありませんが、バターや牛肉などに含まれる構造的に安定している飽和脂肪酸をとることが(細胞膜をつくるために必要なコレステロールを増やすことが)ミエリン層の形成に好影響を与えることができると考えられています。いっぽう、酸化した脂肪酸をとると、老化は加速され、フリーラジカルという細胞膜の破壊を促す活性因子を生じさせます。フリーラジカルは身体に有害で負担がかかるため、酸化した脂肪酸(揚げ物など)をとることは控えたほうがいいです。
※脂肪酸は脂質を構成する主成分。
食の百科全書であり、高脂肪食についてのお勧めの本『シリコンバレー式、最強の食事』
方法2. 反復運動がミエリンの層を分厚くする
動物実験(マウスの研究)では、反復運動をすることによってミエリンの層を分厚くできることが判っています。これは同一の動作によって、伝わる電気信号が同一の経路をたどるからだと考えられます。つまりウエストサイズぎりぎりのパンツを何度も履くと、パンツのサイズが大きくなるようなものでしょう。
大阪人の頭の回転が速いわけは、おそらく会話の反復運動によるのでしょう。
イメージトレーニングが効果的であるのは、ミエリンの層が分厚くなるから
いったん身体動作の確立した運動はーーバスケのシュートであれヴァイオリンの演奏であれーーそれを想像するだけで上達できることが、多くの研究によって示唆されています。そのおもしろい研究が下記の動画(リンク先)で紹介されています。
ある研究では144名のバスケットボール選手を 2グループに分けました Aグループは実際に体を動かして 片手でのフリースローを練習し Bグループは頭の中だけで練習しました 2週間の実験の最後にテストしてみると 両グループの中級・ベテランの選手は ほぼ同じ程度に上達していました 科学者が脳の秘密を 解明していくにつれ 効果的な練習に関する理解も これから進む一方でしょう。
参考サイト:Myelin sheath structure and regeneration in peripheral nerve injury repair
まとめ
頭の回転速度が上がることは、ほとんどの人にとって、喜びです。一生のほんのわずかな限られた時間で、頭の回転速度が上がれば、為すべきことをより速く遂行できます。頭の回転速度を上げる方法があるならば、その方法を試みない理由はないでしょう。ミエリン層を分厚くして絶縁体としての機能を高め、電気信号の伝導力を上げること、そのために、高脂肪食を実践する、反復運動をくりかえすことがあります。
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