【作品紹介】
鼠坂と呼ばれる坂に、ある立派な邸宅ができた。所有者は深淵氏という。
友人である新聞記者の小川氏と中国語の通訳をしている平山氏とが落成式に招かれて、そこで宴会が行われる。
宴もたけなわのところ深淵氏が小川氏へある急所を突いた一言を告げる。
……急所を突いた一言から物語の奥深さを味わう西洋と東洋の統合者、森鴎外氏の智力を味わえる作品!
ここからは鼠坂の要約をしたいと思う。
鼠坂の要約|どんな物語?
『鼠坂』は「仕返しの物語」である。
1905年、奉天会戦の時期に起きた出来事ーー新聞記者の小川氏が支那人(中国人)である20代の美しい女性を服従して、肌が震えるほど冷える坑の中で死なせたことーーを支那人の親族か不明ではあるが深淵氏が同じようなやり方で仕返しをして、小川氏の命を奪う。
その根拠は
①死んだ支那人の女性が鼠色の着物を着ていたことと鼠坂に新築を構えたこと
②建物の建築にあたり御影石(日本ではお墓を作るときに最も使われる石)を運ぶ文
③宴会中に深淵氏の女房が「小川さんは本当に優しい顔して「悪党だわね」」と言ったこと、これは中国の大晦日には悪魔を呪うという意味があり、家族を崇拝する意味がある、そして今日は旧暦の除夜でちょうど七回忌である!
④坑のような場所で小川氏を脳溢血させたこと
⑤深淵氏が中国語で美しいを表す「好嫖致」という言葉を小川氏に言い放つところ
にある。
注意深く読まないと、『鼠坂』はただの物語として読み終えると思う。
鼠坂の感想|森鴎外氏の偉大さ
森鴎外氏の作品『鼠坂』がちくま日本文学の森鴎外全集に収録がある理由はなぜか?
物語が急展開を迎えるところに注目したい。
深淵氏の急所を突く一手(小川の弱みを言ったことを指す)により、意気揚々と饒舌な会話を展開する小川氏が急に勢いを失い言葉数が少なくなる。小川氏の顔の青冷め様子が脳裏にやすやすと浮かぶ。
西洋文化を輸入してきた森鴎外氏は、やはり西洋の芸術にも精通している。
というのは対照的なストーリー展開と対照的なひとりの人の心理状態を作中ー『鼠坂』ーにて表しているからだ。
表面では仕返しの物語と私たちに見せかけておいて、裏面では自らは偉大であるという智の優越感を見せている。
左右対称、シンメトリーの西洋の美的感覚、西洋文化と東洋文化を混ぜ合わせて統合させた森鴎外氏はやっぱり偉大である!
この偉大さが買われて森鴎外全集に『鼠坂』が載せられているのである。
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