『妄想』とはどんな物語なのか?
『妄想』は森鴎外氏の死生観、自我、苦痛、幸福についての哲学、自然科学を輸入した過去の記憶がまとめられた短編である。
『妄想』を読んでわかったこと
森鴎外氏の思想の変遷がわかる。
西洋の哲学者であるマインレンデル、ハルトマン、ショウペンハウアー、ニイチェの哲学を取り入れるが、結局のところ、すべての哲学が一編の抒情詩にすぎないと鴎外は考える。
そして幸福は得られないことを知っていく。
『妄想』を読む限りにおいて、氏は死に対する恐怖また憧憬をもたない現実世界に飽き果てた強大なニヒリスト(虚無主義者)であることがうかがわれる。
以下は『妄想』内で氏がハルトマンの言葉を引用している文章である。
大抵人の福と思っている物に、酒の二日酔をさせるように跡腹の病めないものは無い。
それの無いのは、ただ芸術と学問との二つ丈だと云ふのである。
自分は丁度この二つの外にはする事がなくなつた。
それは利害上に打算して、跡腹の病めない事をするのではない。
跡腹の病める、あらゆる福を生得好かないのである。
ちなみにハルトマンの哲学に影響を与えた人物、ショーペンハウアーは福の最高位は「芸術」であると述べている。
『妄想』重要な文章|要点まとめ
日の要求に応じて能事終わる(自分のすべきこと)には「満足」を知らなくてはならないが、鴎外は「満足」を知ることができない。
どんなに巧みに組み立てた形而上学でも、一編の抒情詩に等しいものだということを鴎外は知る。
『妄想』の感想
『妄想』は、以下の冒頭文から本作品に描かれた鴎外氏の思想を読み取ることができる。
海を眺めている白髪の主人は、この松の幾本かを切って、松林の中へ嵌め込んだように建てた小家の一間に据わっている。
この文章の意味するところは、この世界は誰かに操られておりその中の世界(劇)で私たちが生を演じる、ということである。
文豪の文章には無駄がないことも読み取れる。
『妄想』の雑学
「il ne vivra pas longtemps」というフランス語を日本語に訳すと「彼は長く生きられないだろう」である。
「青い鳥」は、幸福の象徴であり、ベルギーの劇作家メーテルランクの作品である。
妖精に導かれて幸福の象徴「青い鳥」を求めて幻想的世界をさまよい歩く。
幸福は外部にではなく,みずからの心の内に宿るとするモラルを骨子とし,作者の夢と詩がみごとに融合した傑作。
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