現代最高のヴァイオリニストと称されるヒラリー・ハーン。
最高の形式を最高に洗練された技術者によって解釈せられる音による芸術。
ヒラリー・ハーンを含め、音楽家はひとりの批評家であって、ひとりの芸術家である。
というのは批評家(音楽家)には芸術家(作曲者)の世界観の解釈が要求せられ、音楽家は別の形式によって表現を試みなければならず、そしてその表現が美的体験を我々にもたらすからである。
さて、本記事では、わたしの気に入っているヒラリー・ハーン氏の演奏を紹介したい。
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ト長調K.216
演奏時間 | 26分 |
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曲 | Concerto for Violin and Orchestra No. 3 in G major, K. 216 |
作曲 | ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト 1775年に作曲された |
「G major」は英語での名称であり、日本語では「ト長調」を意味する。
ト長調は西洋音楽における調のひとつ(ト (G) 音を主音とする長調のこと)。
シャルパンティエはト長調について「甘い喜ばしさを表す」と言う。
マッテゾンは「人を引きつける雄弁な性格を強く持ち、輝かしさも少なからずあり、真面目な表現にも、活気のある表現にもよく適している」と言う。
軽く、流れるような響きを持つとされ、そのことから小編成で室内楽的な曲が多く、大規模な作品はあまり書かれていない。
「K. 216」というのは「ケッヘル番号」のことであり、モーツァルトの作品番号を表す。
番号はK. 1からK. 626まであり、K. 626はモーツァルトの死によって未完に終わったレクイエムである。
ヴァイオリン奏者として彼女が奏でる《ヴァイオリン協奏曲第5番k.219》も併聴されたい。
構成
●第1楽章:allegro ト長調 4分の4拍子 協奏曲風ソナタ形式 9分〜10分
allegro(アレグロ)はイタリア語であり「陽気な、快活な」を意味する。
●第2楽章:adagio ニ長調 4分の4拍子 ソナタ形式 8分〜9分
adagio(アダージョ)はイタリア語であり「くつろぐ」を意味する。
●第3楽章:rondo-allegro ト長調 8分の3拍子 ロンド形式 6分〜7分
rondo(ロンド)はフランス語であり、日本語で「輪舞曲」と書かれる。
異なる旋律をはさみながら、同じ旋律(ロンド主題)を何度も繰り返す形式。
ヴァイオリン協奏曲第3番k.216は「シュトラスブルグ協奏曲」とも呼ばれる。
参照:Wikipedia
ヴァイオリン協奏曲は、ヴァイオリンのための協奏曲。
通常はヴァイオリン独奏者(ソリスト)と管弦楽による伴奏によって構成される。
まれに複数のヴァイオリン奏者(演奏者)がいる場合もある。
バロックの時代から現代まで、多くの有名な作曲家がヴァイオリン協奏曲を作曲しており、協奏曲の重要なジャンルとみなされている。
バロックはヨーロッパにおける17世紀初頭から18世紀半ばまでの音楽の総称であり、この時代はルネサンス音楽と古典派音楽の間に位置する。
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
演奏時間 | 27分 |
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曲 | ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64 |
作曲 | フェリックス・メンデルスゾーン 1844年に作曲された |
ホ短調は、西洋音楽における調のひとつであり、ホ(E)音を主音とする短調のこと。
ヴァイオリンの最高開放弦を主音とする短調であり、他にもG、 (D) 、Aの弦の音を含んでいるので、ヴァイオリンに演奏しやすく、よく音の響きやすい短調のひとつである。
シャルパンティエは「ホ短調」について「なまめかしさや悲しさを表す」と述べている。
マッテゾンは「非常に考え込み、深く沈み、悄然とし、悲しげな状態を作り出す」と述べている。
構成
●第1楽章 allegro・モルト・アパッシオナート ホ短調 ソナタ形式 13分〜14分
●第2楽章 andare ハ長調 三部形式 8分〜9分
andare(アンダンテ)はイタリア語で「歩く」を意味する。
allegretto(アレグレット)とallegro(allegro)の中間の速度を示す。
●第3楽章 アレグレット・ノン・トロッポ 〜 アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ ホ短調 ソナタ形式 6分〜7分
参照:Wikipedia
三大ヴァイオリン協奏曲のひとつ!
明るい華やかさ、幸福感と憂愁の両面を併せもち、穏やかな情緒とバランスのとれた形式、そして何より美しい旋律で、メンデルスゾーンのみならずドイツ・ロマン派音楽を代表する名作であり、本作品は、ベートーヴェンのOp(作品)61、ブラームスのOp(作品)77と並んで、3大ヴァイオリン協奏曲と称される。
ちなみにチャイコフスキーの作品35を加えて、3大ヴァイオリン協奏曲は4大ヴァイオリン協奏曲とも称される。
ヒラリー・ハーンが奏でる作品35は我々に絶対に美的体験をもたらすに違いない。
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
チャイコフスキーの作品35は三楽章で構成され、以上は第一楽章のみの演奏である。
鑑賞者の心情をこころよく揺曳し、高揚する、ときに優美でときに憂愁な崇高な演奏である。
なんとも言えない良い調べ。
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品 61
演奏時間 | 48分 |
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曲 | ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61 |
作曲 | ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン 1806年に作曲された |
“D” という文字が神 (deus) を連想させるため、崇高な精神を表現したいときに好まれる。
バロック時代から初期ロマン派時代にかけて、弦楽器の響きが最も良く、トランペットとティンパニが使える調として重要視され、祝典的行事のために盛んに書かれた。
シャルパンティエはニ長調について「喜びと勇壮さを表す」と述べている。
マッテゾンは「幾分鋭く、頑固な性質を持っている。騒ぎや楽しげなもの、好戦的なもの、鼓舞するようなものに最も適している。」と述べている。
構成
●第1楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポ ニ長調 協奏風ソナタ形式 25~26分
●第2楽章ラルゲット ト長調 変奏曲 11~12分
●第3楽章ロンド アレグロ ニ長調 ロンド形式 10分
参照:Wikipedia
ベートーベンの作品61は、ベートーヴェン中期を代表する傑作の1つである。
彼はヴァイオリンと管弦楽のための作品を他に3曲残している。
2曲の小作品「ロマンス(作品40および作品50)」と第1楽章の途中で未完に終わった協奏曲(WoO 5)がそれにあたり、完成した「協奏曲」は本作品1作しかない。
その完成度はすばらしく、『ヴァイオリン協奏曲の王者』とも、あるいはメンデルスゾーンの作品64、ブラームスの作品77の作品とともに『三大ヴァイオリン協奏曲』とも称される。
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001 – 第4楽章 プレスト
演奏時間 | 不明 |
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曲 | 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ |
作曲 | ヨハン・セバスチャン・バッハ 1720年ごろに作曲された |
シャルパンティエはこの調について「厳守で壮麗」と述べている。
マッテゾンは「真面目さと愛らしさを持ち合わせている最も美しい調」と述べている。
モーツァルトの曲の分析では、死を予感させる調性としてしばしば言及される。
構成
ソナタ第1番ト短調 BWV1001
●Adagio
●Fuga. Allegro
●Siciliano 変ロ長調
●Presto
パルティータ第1番ロ短調 BWV1002
●Allemande – Double
●Courante – Double. Presto
●Sarabande – Double
ソナタ第2番イ短調 BWV1003
●Grave
●Fuga
●Andante
●Allegro
パルティータ第2番ニ短調 BWV1004
●Allemande
●Courante
●Sarabande
●Gigue
●Chaconne
ソナタ第3番ハ長調 BWV1005
●Adagio
●Fuga alla breve
●Largo
●Allegro assai
パルティータ第3番ホ長調 BWV1006
●Preludio
●Loure
●Gavotte en Rondeau
●Menuet I
●Menuet II
●Bourree
●Gigue
参照:Wikipedia
ヨハン・ゼバスティアン・バッハの作曲した無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータBWV1001-1006は、3曲ずつのソナタ(BWV番号は奇数)とパルティータ(BWV番号は偶数)合計6曲からなり、ヴァイオリン独奏の楽曲として、今日では古今の名作の一つに数えられる。
解説せられた芸術ほどつまらない
音楽は芸術の一形態である。
音楽であれ絵画であれ言語であれ、解説せられた芸術ほどつまらないものはない。
というのは芸術は鑑賞者の人間性を要求し、触発し、発見を待ち焦がれているからである。人間性とは鑑賞者を人間たらしめる要素であり、人格や性格、知などから構成せられる。
芸術はひっきょう(能動性を要求するが)快の感覚を鑑賞者に与らしめる。それが芸術の役割のひとつであり、したがって、鑑賞する前段階において鑑賞の方向性を定める解説は不要なのである。
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