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コレット|『牝猫』の要約と感想

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1933年に発表された『牝猫』はフランスの女性作家コレット(1873-1954)による短編小説である。

コレットは20世紀フランスの文壇の女王ともいわれており、1948年にはノーベル文学賞の候補者ともなった。小説よりも激しい波乱万丈な人生を送ったことでも知られる。

『牝猫』では、新婚夫婦の夫アランと妻カミイユと、牝猫サハを含めた三角関係が描かれる。二人のあいだを引き裂く牝猫のサハが格好の位置関係を占める。

 

コレット|『牝猫』の要約

 

猫に対する理解を生まれながらにして持つアラン(24)は許婚であった現代女性の典型カミイユ(19)と新婚生活をはじめる。二人の新築(アランの実家の増築)は工事中であるため、新婚生活はいったん友人の十階部屋での仮住まいに送られる。

 

アランの最愛の牝猫であるサハは、アランの実家に棲んでいる。いつでも会えない愛おしさゆえに、アランはサハを仮住まいの部屋へと連れてゆく。サハの存在によってだんだんにアランの関心はカミイユから離れて消えてゆく。サハに嫉妬せずにはいられないカミイユ。

 

牝猫のサハを含めた三角関係はある事件によって一角が失われる。

ことの発端は、アランの外出中、カミイユとサハが部屋にふたりきりでいる状況。カミイユはテラスの手摺で気をゆるめていたサハを十階の高さから突き落とす。

しかし奇跡的にも生還することのできたサハは、これ以降アランの関心を独占して、カミイユからアランを奪いとることに成功する。もとよりアランも(彼の偏見によって)カミイユに対しては憂鬱な態度をとっていたために、これをよろこばしく感じている。

 

アランの猫に対する最大の理解は、最後にはアランを半身雄猫へと変身させることにつながる。

 

コレット|『牝猫』の感想

 

『牝猫』の物語全体を貫徹している副題は、夫アランの女性に対する恐怖である。

夫アランの恐怖というのは妻カミイユに養分を吸いとられることに依拠しており、性の征服に向かった戦士(男)の無惨な降伏なのである。男の身にまとう鎧、刀、甲などの財産はあまねく没収されて、残るものはなく枯れて、勝者(女)は肥沃する。

それがしてアランが自分の実家にカミイユを住まわせたくない遠因である。

 

雷に怯えない、恐怖を感じない女、怖いもの知らずの女、カミイユは、アランにとっては妬ましい存在であった。なぜならそれは降伏を知らずして肥沃のみを知っている、男を根絶やしにする性根のもちぬしだからだ。

 

「動物に対する愛」と「人間に対する愛」と

 

人間を除いて動物は嘘をつかず裏切ることはない。それまでの動物に対する諸々の愛の処遇によって、動物は本能によって人間になつくのであり、引きよせられるのであり、愛を報いるのである。

 

アランにとって幸福なことは、それは人間と動物とのあいだには肉欲が前提されないということである。これにより男性の根底に存する本能がーー養分を吸いとられるよりも蓄えることを欲することがーー動物とのあいだでは無化されるため、牝猫サハに対しては安心して愛を育めるのである。

 

しかし、人間というのは周知のとおり偽善者であり、往々にして仲間を裏切る。よしや妻カミイユに養分を送りこみ愛を育んだにせよ、その愛はたちまち忘れ去られ、夫アランの財産が枯渇すれば妻カミイユは不倫または破局を考える。

夫アランが妻カミイユを信頼せずに警戒しているのは無理からぬ話である。

 

アランは誇大妄想に取り憑かれているか?

 

アランの妄想というよりは深遠な思考は、あまりにも現実を見透かしている。

たしかにカミイユの欲望の根底にはアランの所有物をあまねく奪いとる意図が潜んでいるにはちがいない。けれども、かかる意図はカミイユの意識のほかにあるのであって、彼女は単にどこにでもいる嫉妬深い、一人の男に愛されたい19歳の小娘にすぎない。

カミイユに対してのアランの誇大妄想ともいえる先入観が、可哀想なことに、妻カミイユの人格を歪曲している。

 

最後にはアランは牝猫サハに征服されて、半身半獣の雄猫に変身するような表現がつくされる。なるほどアランは誇大妄想に取り憑かれていたかのようである。

 

令和二年 六月

 

 

 

 

 

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