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本を読む、感想を書かない、YouTubeを視聴するのと一緒

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本を読むことを良いことと思うなら、その内容を読むことよりも字を追うことに喜びを覚えるかもしれません。

本を読むときに意識することは「娯楽」ではなく「学習」であり、政治・経済などの社会の諸課題を、あるいは自己を冷静に見つめることです。

YouTubeを視聴して学習することもあります。が、そういう人は少数派で、たいていは娯楽意識で視聴しているように思います。このごろは本(伝達を旨とする本)と同程度の情報をYouTubeから得ることができるため、本を読むときの学習意識では到達し得ないだろう視点で、YouTubeを視聴しながら社会の諸課題を考えることができます。これを思えば、本を読むよりもYouTubeを視聴するほうが想像的で生産的であろうと言えそうです。

 

本にありYouTubeにないもの|構造の複雑性

 

本にありYouTubeにないものとは構造の複雑性くらいのものです。この構造の複雑性とは、テキストに隠されている作者の意図(伏線や一貫した文章構成)、材料選定の徹底性、データの信頼性などの階層の深さ、あるいはコンテンツの耐震性を表すようなものです。二度三度と繰り返し読んで発見できることが多いほど構造の複雑性をもっていると言えます。逆に一度で満足できるような内容でしたら構造の複雑性をもっていないと言えます。

たとえば芸術を、芭蕉の俳句を、一読しただけでもう満足という人はいないでしょう。しかし労を費やし芭蕉の俳句的なコンテンツをこしらえ、それをYouTubeにアップロードしたとしても再読(再視聴)されることはほとんどありません。YouTubeの視聴者の求めるものとは娯楽のコンテンツであり、学習のコンテンツではないからです。

 

感想を書くことで発見できることがある

 

二度三度と繰り返し読む、あるいは感想を書くことで、コンテンツに隠された構造の複雑性を発見できます。本の内容を読み、そこから想像を膨らますだけではYouTubeを視聴することとたいして変わりません。本を読んでも感想を書かないことは、数学の問題を読むだけで解答しないようなことです。

YouTubeや本にはそれぞれの美点があります。だから本の美点たる構造の複雑性を細部に至るまで発見できるよう、本を読み、思考する・再読する・感想を書くということが重要なのです。また、YouTubeの美点とは、視聴者の好感をたちまち獲得する演出技法ですから、それを考えたり、分析したりすることで学習となります。

 

なぜ感想を書くことで発見できるのか?

 

あるものを発見するというのは、ある物事と自己との間に関係を結ぶことです。あるものに光をあてたり、力を与えたり、自己の視点を変えたりして、私たちはそのものの色や形を把握します。感想とは、ある物事から受ける印象をいったん立ち止まり考えることで、ある物事と自己との関係を変える、つまり動的な熱狂状態から静的な知的状態へと視点を変えることです。そのように視点を変えることだから、感想を書くことで物事から新しい何かを発見することができるのです。

 

どういう感想を書くか?無双の感想を書く

 

「思ったことを書け!」というのはもちろんのことです。もっとも良いのは、コンテンツと自己との関係を、唯一無二の無双のものとするような感想を書くことです。文学を読み、思ったことを素朴に書くことはーーこの文章は一字千金に値するとか、一刻千金の読書体験だったとか、考えさせられたとかなどはーーほかのコンテンツと自己との関係でも応用することができるもので、無双のものとはなり得ません。コンテンツと自己との関係を、唯一無二の無双のものとすることにより、ほかのコンテンツから得られない発見をすることができます。

 

令和三年 三月

 

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